鉄道写真のフォトテクニックドラマチック!
鉄道風景写真入門
第1回 鉄道風景写真をうまく撮る手順
山﨑友也
鉄道写真家
プロフィール
1970年広島生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。独自の視点から鉄道写真を多彩に表現し、出版や広告など幅広し分野で活躍中。鉄道写真の専門家集団「レイルマンフォトオフィス」代表。
EOS学園 講師プロフィールへ皆さん、こんにちは。鉄道写真家の山﨑友也です。ここから全3回の連載で、鉄道写真の撮り方をレクチャーさせていただきます。
鉄道写真というものは、車両をありのままに撮る「形式写真」や、走行中の列車を撮る「編成写真」など、さまざまなジャンルに分かれています。ここでは鉄道に詳しくなくても楽しめる、もっともポピュラーで人気の高い「鉄道風景写真」についてお話していきます。絶景の中に列車が加わることで、写真がドラマチックになりますよ。
車両の知識は必要ナシ。
風景写真家さんも、いらっしゃい!
鉄道風景写真の「主役」はあくまで風景です。列車は「脇役」にすぎません。風景写真を撮ることに少しでも興味があるなら、どなたにでも撮ることができる楽しいジャンル──それが「鉄道風景写真」なのです。鉄道に興味がなくても、車両の知識がなくても大丈夫です。人の心を動かすドラマチックな写真を目指しているのでしたら、鉄道風景写真の世界にぜひお誘いしたいです。これからボクと一緒に、基礎から鉄道風景写真を学んでいきませんか?
「鉄道風景」この一枚への思い
EOS-1D Mark Ⅳ・EF70-200mm F2.8L IS USM・Mモード(1/400秒・F5)・ISO200・WB太陽光
撮影地:只見線会津桧原〜会津西方 MAP
「鉄道風景写真」には技術とセンスが必要ですが、それ以上に大切なのが「運」。運を天にまかせるしかなく、もっとも成否を左右するのが「天候」です。 鏡のように静かな水面に、若葉がまばゆいくらい輝いているこちらの作品。通常の風景写真であれば、晴れて風のない状態を待ってシャッターを押せばよいでしょう。しかし、鉄道風景写真の場合は、列車が来たときにこの状態である必要があります。運行本数が少ないローカル線では、風景と列車が完璧なタイミングでシンクロする確率はきわめて低いです。撮影現場では祈るような気持ちで奇蹟を待ちます。その緊張感たるや半端ではありません。 見れば「きれいな写真」と思ってもらえる一枚ですが、そのために何日も粘るなど、見えない苦労がたくさん隠されているのです。それだけに、完璧な条件で撮れたときの喜びもまたひとしお。だから「鉄道風景写真」はやめられないのです。
では、第1回はまず、鉄道風景写真を撮る
基本中の基本テクニックをご紹介しましょう。
基本テクニック講座 鉄道風景写真をうまく撮る手順
鉄道風景写真を撮るには、ちょっとしたコツが必要です。しかし、人間のやることにはミスは付き物。ここでは、たとえミスをしても極力リカバリーできるように、鉄道写真歴42年のボクが培ってきたノウハウを、ちょっともったいないけれどご披露しましょう。まずは基本中の基本、鉄道風景写真における「ピント合わせ」の方法です。
- 手順1
線路にあらかじめピントを合わせておこう
写真を構成する3大要素として「構図」「露出」「ピント」があるのはご存じでしょう。では、撮影現場で最初に決めるべきは、構図、露出、ピントのどれだと思いますか? 失敗しない鉄道風景写真を撮るための第一条件として、そして長年鉄道を撮り続けてきた経験上、ボクは「ピント合わせ」を最重要視しています。それはなぜでしょうか?
鉄道風景写真を撮る場合のありがちな失敗とは、走ってきた列車に無理やりピントを合わせようとすることです。焦りと緊張感で慌てふためきながらでは、ピントを合わせる余裕はありません。撮影地に到着して早々、急に訪れたシャッターチャンスを逃してしまうことも。ピントさえ合わせておけば、1枚はモノにできたかもしれないのに……。そんな人に出会うたびにボクは、「あ〜あ、CANON iMAGE GATEWAYの会員になって、このページを見ればいいのに」と思ってしまうことでしょう。
では、どうすれば確実に列車にピントを合わせられるのでしょうか? その答えは意外と簡単です。
ピントは列車のいない状態の時に、
あらかじめ線路に合わせておく
- 手順2
Tvモード(シャッター優先AE)で、
列車をブラさない
鉄道風景写真はTvで撮ろう
さて、手順1では、撮影地に着いたらまずピントを合わせることをお勧めしました。では、次にすべきことは「構図」をつくることでしょうか、それとも「露出」を合わせることでしょうか?
答えは「露出」です。鉄道風景写真の場合、肝心の列車がブレては元も子もありません。自然風景がメインではありますが、列車がブレないシャッター速度が必要なのです。つまり、鉄道風景写真ではTvモード(シャッター優先AE)が基本になります
シャッター速度はどう決める?
鉄道風景写真の撮影では、列車をブラさないシャッター速度に設定することがポイントです。
まず大前提として覚えておいて欲しいこと。それは列車が画面を横方向に走る場合、レンズの焦点距離が広角になればなるほど画面内の列車の移動量は小さく、逆に望遠になればなるほど移動量は大きくなるということです。つまり、レンズの広角側であれば比較的遅いシャッター速度でも列車はブレず、望遠でねらえばねらうほど高速のシャッター速度でないとブレてしまうということです。また、同じ焦点距離のレンズを使用していても、列車との距離が近づけば近づくほど、速いシャッター速度にしなければ列車はブレてしまいます。
ボクの経験値として具体的な数値をあげるなら、24mm(35mm換算)のレンズを用いて広い絵を撮ろうとする場合、100m先を時速100kmで横切る列車を止めて撮るには、最低でも1/500秒ほどのシャッター速度が必要でしょう。これが200mmの望遠レンズで撮る際には1/4000秒以上の速いシャッター速度でないと列車はブレてしまうおそれがあります。
横に移動する列車を
100m離れたところから
撮影する場合


- 手順3
露出補正は「黒シメ白アケ」と心得よ
「Tvモード」などでカメラが判断した露出に頼っていては、見た目どおりの明るさでは写りません。これが写真撮影の面倒なところであり、奥深く楽しいところでもあります。でも、どうしてカメラまかせの露出では見た目の印象どおりにならないのでしょうか。
カメラはどんな色や明るさのものでも、中間色である灰色に近づけようとしてしまいます。被写体が「黒い」とカメラは「暗い」と判断してしまうので、「明るく」写そうとします。逆に被写体が「白い」とカメラは「明るい」と判断するので、「暗く」写そうとします。
そこで、カメラが指示した露出を少しだけ修正し、見た目に近い明るさで写るように調整する場合があります。これを「露出補正」といいます。黒っぽい被写体を撮るときはマイナス補正、白っぽい被写体を撮る時はプラス補正にすれば、見た目に近く写るのです。この関係を覚えやすくするために、ボクは「黒シメ白アケ」と呼んでいます。
黒いものを撮るときは
露出をシメないと明るく写ってしまう
白いものを撮るときは
露出をアケないと暗く写ってしまう
- 手順4
ファインダーの「絞り値」に注意せよ!
「Tvモード」に設定し、露出補正も無事終わりました。しかしこれで安心してはなりません。ファインダー内で「絞り値」をチェックします。絞り値そのものが「点滅」していませんか?
「Tvモード」では自分の好みのシャッター速度に応じた絞り値を算出して露出を決めてくれます。しかし、適正露出にならない、極端に速い/遅いシャッター速度でも設定できてしまうので注意が必要です。 そんなときカメラは露出がおかしいことを察知し、ファインダー内の数字を点滅させてボクらに教えてくれます。
ほら、そこのあなた!
絞り値が点滅していませんか?
シャッター速度を決めたら、シャッターボタンを半押ししてください。その時点で絞り値が点灯していれば問題ありませんが、点滅していたら露出が著しく適正ではないことを意味しています。
鉄道風景写真では、列車をブラさないようにするため、ついつい速すぎるシャッター速度を選択してしまい、露出アンダーになってしまいがちです。絞り値が点滅していたら、シャッター速度を遅くするか、ISO感度を上げる、開放値の明るいレンズを使用するなどして、点滅を防ぐ対応が求められます。
「決め露出」は
Mモード(マニュアル)で
「Tvモード」でテスト撮影したら、今度は「露出」を確認しましょう。カメラ背面の〈INFO.〉ボタンを押すと表示される(機種により操作が異なる場合があります)、テスト撮影した画像の「シャッター速度」と「絞り値」です。同時に、露出補正の値も確認します。
その露出で明るさに問題なければ、モードダイヤルを「Mモード」(マニュアル)にして、先ほど表示されていた露出に設定してみましょう。「Tvモード」時に決定した露出を「Mモード」に移行する、いわゆる「決め露出」で撮影するということです。露出を変えない限り、あらかじめ設定したシャッター速度と絞りで撮れるのが「Mモード」にするメリットです。
車両の色が黒っぽかったり、白っぽかったりしたときに、「Tvモード」などではカメラがその色を感知して露出を変えてしまう恐れがあります。しかし「Mモード」では、どんな色の列車が来ても露出は変わりません。テスト撮影したときと同じ明るさで撮影できるというわけです。
Tvでテスト撮影した露出を
Mに設定し
「決め露出」で撮影してみよう
①〈INFO〉ボタンを押してテスト撮影した露出を確認
② モードダイヤルを「Tv」から「M」へ変更する
③ テスト撮影時のシャッター速度と絞り値を設定すればOK
- 手順5
最後にじっくり「構図」を決めよう
ピントと露出が決まったら、最後にじっくりと「構図」を考えましょう。構図について、詳細は次回述べますが、鉄道風景写真は「構図」が成否を分けるポイントなのです。時間に余裕をもって現場に着き、列車の到着までに構図を練って液晶モニターで確認し、最終的にどう撮るか判断しましょう。
ポイントまとめ
ここがポイント!
写真は撮影時がすべて。後処理に頼るなかれ。
- 現場に着いたら「ピント合わせ」が最優先
- 列車がブレないシャッター速度に設定する
- 露出補正は「黒シメ白アケ」と覚えよ
- Mモードの「決め露出」で撮ろう
これまで風景鉄道写真を撮る手順を述べてきましたが、最後にひと言。
写真とは、撮影前にあらゆることを設定し、仕上がりのイメージを想像してからシャッターを押すものです。撮影後の画像調整などの後処理に頼っていては、写真は絶対にうまくなりません。このことをしっかりと胸に刻み、今後はこの手順を参考に一枚一枚、真剣に撮影するよう心がけてください。
第2回は、構図の基本をレクチャー。
いよいよ本格的に「鉄道風景写真」の撮り方に
入っていきます!