愛知県生まれ。医療ソーシャルワーカーとして精神障害者のケースワークに従事。その後、自然写真家として独立。身近な自然から風景・オーロラと幅広いジャンルを手がけ、繊細で力強い独創的な作風を特徴とする。オーロラと風景を組み合わせた一連の作品は海外からも高く評価され、カメラ誌・アウトドア誌・カレンダーなど多くの媒体に作品を発表している。
日本写真家協会・日本自然科学写真協会 各会員
「新常識」その1
従来の常識を捨てることが、「新常識」の出発点です。
「えっ、そうなんだ!」「だからそんな表現ができるのか!」という気づきが重要。
冬ならではの撮影テクニックを紹介しましょう。
日中の雪面は順光で眺めると白一色。そこで影を意識して探してみましょう。影は順光で眺めると被写体の後ろに隠れて見えません。しかし撮影ポジションを90度回り込めば順光から斜光条件となり、影の存在に気がつきます。ここでは影を活かした撮影方法を紹介します。
撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF14mm F2.8L II USM・F13・1/320・ISO100・ WB5500K
撮影地:青森県八甲田山
樹氷の影を斜逆光で大胆に捉えました。よく見ると実像と影の形が違うのがユニーク。
複雑なフォルムの樹氷ですが影は棒状で至ってシンプルです。
こうした意外性に着目することも撮影の面白さです。
撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF70-200mm F2.8L IS USM・F16・1/250・ISO100・ WB5500K
撮影地:青森県八甲田山
広い風景や遠方の風景では意外に気がつきにくいのが影の存在です。
この作品では遠方の斜面を横切るように影が見えます。
ところがこの横方向の影は斜面の凹凸で樹氷群の影は左下に伸びています。
この場面も光線状態は斜逆光です。
横に伸びる影が目立つことで、川の流れのような流動感を感じます。
冬の風景写真にメリハリやコントラストをもたらすのが「影」。演出のポイントは「露出補正」です。
〈-2補正〉
〈露出補正なし〉
日陰の林を大きく前面に配し、背後に雪山を照らすスポット光を捉えています。
通常のオート撮影では、前景の日陰に露出が合うため雪山は白く飛んでしまいます。
雪山を印象的に再現するにはマイナス1~2程度の露出補正が必要です。
〈-1補正〉
〈+1補正〉
上空に雲があると雪原にはその影が走ります。
この雲の影を意識し目立たせることで印象的な雪原風景が生まれます。
ポイントは影を強調する露出選びです。
雪は白いからと安易にプラス補正すると、影は浅くなって目立ちません。
色彩にあふれた春や秋とは違って、冬という季節は色数の少ないモノトーンの景色が特徴です。
ですから、雪景色を目の前にすると多くの人は、ただ「真っ白」だと思ってしまいます。
雪が白いと感じるのは、人間の目が引き起こす錯覚です。雪の本当の色は「無色透明」。無色だからこそ光線の状態など環境に応じて、さまざまな「雪色」を見せるのです。その色の変化を見ていきましょう。
撮影データ:EOS 5D Mark II・EF70-200mm F2.8L IS USM・F16・1/25秒・+1 1/3 補正・ISO100・WBオート
撮影地:岐阜県高山市
一見すると「雪は白い」というイメージですが、
よく見れば白く見える部分はハイライトの部分のみ。多くはグレーです。
さらに岸辺の雪は、木肌の影響から茶色味がかっているように見えます。
雪の色が周囲の環境に左右されることがわかると思います。
撮影データ:EOS-1Ds Mark II・EF70-200mm F2.8L IS USM・F16・1/15秒・ISO125・ WB太陽光
撮影地:福島県北塩原村
凍りついた小さな池が雪原化しています。肉眼で実際に眺めたときは白い雪原でした。
しかし写真に撮ってみると、この雪の色は淡いブルーに再現されています。
このブルートーンは、夜明け前の薄明の青空の色に影響されているのです。
撮影データ:EOS-1Ds Mark II・EF70-200mm F2.8L IS USM・F10・1/30秒・-1/3 補正・ISO160・WB太陽光
撮影地:岐阜県高山市
このダークな景色は、夜の雪原にできた水溜まりを捉えた作品です。
水面には遠くのライトアップされた景色がオーロラのように映り込んでいます。
雪=白という常識が、覆される写真ではないでしょうか。
一面ブルーの世界に白い雪をアクセントで添えた写真、撮ってみたいですよね。
日没から間もないブルーアワー(色温度が低い時間帯)がおすすめで、
ホワイトバランスを「白熱球」にすると効果的です。
この降雪の情景をさらに幻想的にするには、雪を前ボケの輝きとして写し込みます。
その方法は、①カメラのストロボは強制発光に設定 ②ピントは奥の木に合わせる ③ピントは開放気味に(絞り込まない) ④レンズの近くに降ってくる雪にタイミングよくストロボを当てる。
理想的な場所に雪が映り込むまで撮影を繰り返しましょう!
冬は色のない季節です。そのためか青空を背景にした景色を求めたくなります。でも、快晴の青空だけが冬の色彩ではありません。冬の晴れ間の空に着目すると、普段は背景や脇役にしかならない空が「主役」に! そんな「新常識」を紹介しましょう。
撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF24-70mm F2.8L USM・F16・1/1000秒・-1 2/3 補正・ISO100・WB太陽光
撮影地:北海道中富良野町
雪原の上空に一片の雲が太陽を隠すと、色鮮やかな「彩雲」が現れました。
この彩りを撮るには、マイナス2~3の露出補正が必要です。
景色はアンダーになりますがそれでかまいません。ここでは彩雲が主役なのです。
撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF500mm F4L IS USM・F6.3・1/13・ISO100・ WB5650K
撮影地:岐阜県恵那市
日没直後、白銀の中央アルプス上空の東の空に、ピンクとブルーの帯が現れました。
透明度の高い快晴の空に朝夕に見られる「ヴィーナスベルト」と呼ばれる現象です。
常識では日没時は太陽の方向に目を奪われがちですが、
ヴィーナスベルトは太陽の反対側に現れます。これ、新常識です。
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