兵庫県宝塚市生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業。卒業後、同写真学科研究室勤務を経て現在フリーランス。写真家・高田誠三氏に師事。日本の風景・自然界の「色」を求めて作品を撮影し続けている。EOS学園など写真教室でのアマチュアの指導にも定評がある。楽しいトークと、きめ細やかでわかりやすい指導は、幅広い年齢層に支持されている。
色彩表現の応用テクニック
色鮮やかな紅葉に目を引かれて撮影したのに、撮れている写真には色彩感が再現されていなかった……よくあることですよね。紅葉をイメージどおりの色彩感で表現する方法の一つとして「露出補正」の効果を活用します。
一般に赤い色の被写体は、反射率が低い(暗い)とカメラが判断して、適正露出を設定します。赤い紅葉を撮ると見た目よりも明るく写るのはこのためです。
露出補正をして、見た目に近い色彩感で撮れるようにコントロールしましょう。露出補正をプラスにすれば明るく、マイナスにすれば暗く写るように露出を調整します。色彩感の変化をしっかり確認しながら、露出補正してみましょう。
撮影データ:
(左)EOS 5D Mark III・EF70-300mm F4-5.6L IS USM(焦点距離200mm)・絞り優先AE(F5・1/20秒)・-2/3補正・ISO100・WBくもり
(右)EOS 5D Mark III・EF70-300mm F4-5.6L IS USM(焦点距離200mm)・絞り優先AE(F5・1/13秒)・ISO400・WBくもり
撮影地:和歌山県高野山
雨が降り暗い情景での撮影です。暗いので明るく写ってしまいがち。
マイナス補正で撮影することで色の引き締まりや濃さが増せます。
露出補正〈-1〉
撮影データ:EOS 7D Mark II・EF70-200mm F4L IS USM(焦点距離112mm ※フルサイズ換算)・絞り優先AE(F11・1/10秒)・-1補正・ISO400・WBくもり
撮影地:京都府南丹市 龍穏寺
露出補正〈なし〉
撮影データ:EOS 7D Mark II・EF70-200mm F4L IS USM(焦点距離112mm ※フルサイズ換算)・絞り優先AE(F11・1/4秒)・ISO400・WBくもり
落葉に埋もれた木の根っこの質感を出すにはマイナス補正です。
木の質感が強く引き立ち、雨に濡れた落葉も鮮やかさが増します。
露出補正〈+2/3〉
撮影データ:EOS 5D Mark III・EF24-105mm F4L IS USM(焦点距離32mm)・絞り優先AE( F16・1/40秒)・+2/3補正・ISO400・WB太陽光
撮影地:宮城県 栗駒山山麓
露出補正〈なし〉
撮影データ:EOS 5D Mark III・EF24-105mm F4L IS USM(焦点距離32mm)・絞り優先AE(F16・1/40秒)・ISO400・WB太陽光
カメラを空のほうに向けると、明るい空は濃く出ますが周囲は黒くなります。
青空を背景に木立を撮影したい場合は、逆光に近い条件です。
ですので、プラス補正で明るく仕上げます。
ホワイトバランスは見た目に自動で合わせてくれる〈オート〉にしておけば大丈夫! と思ってしまいますよね。でも、ホワイトバランス〈オート〉は、じつは万能ではありません。こんな色に仕上げたい! と思う色に近づけるために、ホワイトバランスを変えて撮影してみましょう。
ホワイトバランス〈日陰〉
撮影データ:EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USM(焦点距離180mm)・絞り優先AE(F5.6・1/20秒)・-1/3補正・ISO400・WB日陰
撮影地:広島県 宮島
ホワイトバランス〈オート〉
撮影データ:EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USM(焦点距離180mm)・絞り優先AE(F5.6・1/20秒)・-1/3補正・ISO400・WBオート
ホワイトバランス〈オート〉で撮影すると、色味が青白くなる傾向があります。
再現したかった色味に合わせて設定しましょう。
撮影データ:
(左)EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USM(焦点距離180mm)・絞り優先AE(F16・1/30秒)・-1補正・ISO400・WBくもり
(右)EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USM(焦点距離180mm)・絞り優先AE(F16・1/30秒)・-1補正・ISO400・WBオート
撮影地:長野県 乗鞍岳
見た目に近い仕上がりはホワイトバランス〈くもり〉でした。
RAWモードでの撮影なら、あとで好みのホワイトバランスに
変更できるので、色彩表現の幅が広がります。
カメラに搭載されている「ピクチャースタイル」。切り替えることで被写体に適した色を再現することができます。とくに紅葉を撮るときにお勧めなのが、レンズを通しての「素の色」を生かすことができるピクチャースタイル「忠実設定」です。ピクチャースタイル「風景」は見た目には派手なのですが、もとの雰囲気とはかなり違う色調になっている場合があります。色を正しく表現するには、見たときの印象が重要。これに近い色味で撮れるのが「忠実設定」なのです。
ピクチャースタイル〈忠実設定〉
撮影データ:EOS 7D Mark II・EF70-200mm F4L IS USM(焦点距離169mm ※フルサイズ換算)・絞り優先AE(F11・1/6秒 )・-1補正・ISO400・WBくもり・ピクチャースタイル忠実設定
撮影地:京都府南丹市美山町 大野ダム
ピクチャースタイル〈風景〉
撮影データ:EOS 7D Mark II・EF70-200mm F4L IS USM(焦点距離169mm ※フルサイズ換算)・絞り優先AE(F11・1/6秒)・-1補正・ISO400・WBくもり・ピクチャースタイル風景
色が派手なほうへ派手なほうへと目が慣れてしまうのはキケンです。
色の印象が鮮やかなピクチャースタイル「風景」が、
いつでもベストだとは限りません。しっとりと雨に濡れていた紅葉の階調は
「忠実設定」のほうが実際に近い色味です。
写真とは「感性」や「感覚」のものとおっしゃる方がいます。確かにそれもあるかもしれません。しかし、何を撮っても満足できずマンネリになったりスランプに陥ったりすると、「自分には感性がないのかな」などと思ってしまいがちですよね。そんなときは「うまく撮ろう」と思わないことが重要かもしれません。
なぜカメラで対象を撮ろうと思ったのか。カメラを向けることがなぜ楽しいか。そんなふうに初心に帰ってみる、原点回帰してみるのもいいでしょう。
カラーの写真に見慣れているので、たまにはモノクロ設定にして撮影してみたり、単焦点の明るい50mmレンズだけをカメラにつけて、1日中歩き回って撮影してみたりするのも楽しいですよ。
秋の風景写真について、いろんなお話をしてきました。世の中には素晴らしい写真があふれています。その写真をただ見るだけではなく、気にいった写真の「どこがいいのだろう? なぜ感動したのだろう?」と考えてみれば、カメラがなくても写真の勉強はできます! そのうちに素晴らしい情景に出会ったとき、的確なテクニックで思いどおりの写真が撮れるようになっていただけたら……。それが私の願いです。みなさん、どうぞ秋の風景写真を楽しんでください!
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