兵庫県宝塚市生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業。卒業後、同写真学科研究室勤務を経て現在フリーランス。写真家・高田誠三氏に師事。日本の風景・自然界の「色」を求めて作品を撮影し続けている。EOS学園など写真教室でのアマチュアの指導にも定評がある。楽しいトークと、きめ細やかでわかりやすい指導は、幅広い年齢層に支持されている。
構図のポイント
秋の風景写真の構図を考えるとき、ぜひ意識してほしいことは、たったの2つ。それは 「比率」と「配置」です。
まずはルールその1。印象的に見せたいモチーフを画面に多く入れるルールです。
例えば紅葉の森や公園で撮影するとき、空と紅葉を半分半分にしてしまいがち。画面は安定しますが、見せたいポイントがはっきりしない写真になってしまいます。そこで画面に入れる「比率」を工夫するのです。
カメラを上下左右に振って要素の配分を変えるだけで、写真の見え方が変わってきます。その変化を考えながら撮ることが構図づくりなのです。
撮影データ:EOS-1Ds Mark II ・EF24-70mm F2.8L USM(焦点距離 52mm)・絞り優先 AE(F16・ 1/6秒)・
+1/3 補正・WB 太陽光
撮影地:長野県松本市 上高地
どちらも美しいカラマツの黄葉の上高地ですが、ポイントを山と紅葉したカラマツに絞るなら、
下部の河原をなくすほうがすっきりとしますね!
撮影データ:EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USM(焦点距離100mm)・
絞り優先 AE(F5.6・1/50秒)・ISO400・WBくもり
撮影地:滋賀県米原市 徳源院
[MAP]
見事な紅葉を発見。最初はズームレンズの広角側を使い、全体を広く入れて撮影しました。
次に、もっとも鮮やかな部分に注目して、撮影位置を少し左にして
ズームレンズの望遠側で切りとってみると……
「主役」となる部分を引き立たせることができました。
ルールその2。画面に入っている被写体の配置を考えます。たとえば、数多くある花や紅葉の中の1つにポイントとなる「主役」を選んだあとで、どちらかの方向に空間をつくった配置にするとポイントが引き立ちます。
下の写真2点は、紅葉している1本の木を違う角度から撮影しています。撮影位置を探りながら画面右や左に配置してみました。すると背景の山並みはどうでしょう? 上の写真は、木で山の稜線が隠れてしまい画面に広がりがありません。
下の写真は、青空の部分に木が収まり、山が紅葉を囲む形になりました。
配置によって、写真の印象がこんなにも変わるのですよ!
撮影データ:EOS Kiss X7・EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM(焦点距離14mm)・絞り優先 AE(F11・1/125秒)・
ISO400・ピクチャースタイル忠実設定
物は試し! 今度紅葉を撮りに行ったら「比率」と「配置」をそれぞれ変えて撮影してみよう!
それが考えて撮るということです。
本などで見て頭でわかっていても体感&実践しなければマスターできないよ!
さぁ、ここからは構図の考え方を少し発展させた、画面構成の基本ルールを紹介していきましょう。
基本ルール
紅葉をアップで撮影する場合、「葉っぱがたくさん密集しているところを撮ったほうがいい」と思いがちです。しかし、葉が多い部分は色味の鮮やかさは出せますが、写真と しての深みや余韻が表現できません。
そう! そこでおすすめしたい構図の基本ルールが、「団体客より個人客」の発想です。
密集した葉の重なりからポツンと飛び出ている部分や、ひっそりと佇んでいる姿を見つけてあげて! そこを撮れば印象的な写真になりますよ。
撮影データ:EOS 5D Mark III・EF70-300mm F4-5.6L IS USM・絞り優先 AE(F5.6・1/40秒)・+2/3 補正・
ISO400・WBくもり・ピクチャースタイル「忠実設定」
撮影地:和歌山県 高野山
多くの木々が色づいていると、「団体客」となるひとかたまりの紅葉に目がいきがちです。
ただアップで撮ると平面的な写真になってしまいます。
そこで枝の先端部分をねらいます。
すると一枚一枚の葉っぱが個性を主張し、存在感を競い合っている写真になります。
背景はほかの紅葉をぼかすことで、柔らかい雰囲気がつくりだせますよ。
撮影データ:EOS-1Ds Mark II・EF70-200mm F2.8L IS USM・絞り優先 AE(F2.8・1/40秒)・
ISO100・ WB太陽光
撮影地:大阪府吹田市 万博記念公園
[MAP]
あれを撮影したい! これも撮影したい! 皆さんは「主役」ならすぐに見つけることができます。
しかし、「主役」を生かすのもつぶしてしまうのも、じつは「脇役」となる「背景」が大事!
主役を2つ以上にすると、パワーが分散してしまいます。
構図を考えるときは、「主役」 と「背景」に役割を分けてあげましょう。
望遠ズームレンズは部分を「切りとる」ことができるレンズです。写真を始めて間もないころは、例えば、最初に買ったWズームキットの付属レンズや、EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USMのように1本で何でもできる「万能レンズ」で十分です。
キヤノンEFレンズLシリーズ(通称Lレンズ)のような高価なレンズを買えば、たしかに素晴らしく高画質で撮れますが、まずはベーシックなレンズを使いこなせなければ、宝の持ち腐れになってしまいますよ!
ズームレンズを使用中にその場から動かない! という人を見かけます。ズーミングに頼りすぎるのはいけません。「撮影者が動く!」。これが大事です。
自由に動きまわって撮れる場面では、被写体に近づいたり離れたりして背景の入り方が変わることを確かめてみてください。この写真のように、何歩か後ろか前に移動するだけで、この写真のように背景が大きく変わるのですよ!
撮影データ:EOS 6D・EF24-105mm F4L IS USM(焦点距離 28mm)・絞り優先 AE(F16・1/60秒) -1/3 補正・ISO400・WB 太陽光
上の写真の撮影位置から20歩くらい下がってみたのが下のカット。
山並みを小さく配置し、鮮やかな紅葉を空に浮び上らせることができました。
同じ位置でズーミングするだけではなく、カメラの位置を動かすことで、
これだけの変化が得られます!
構図を余り考えないで撮ると、いろんな要素が入り過ぎて「何を見せたいのか」がわかりにくい写真になりがちです。たとえて言うなら、小さなお惣菜をたくさん詰め込んだ「幕の内弁当」のような写真です。そんな写真もありなのですが、構図のルールを覚えるうえでは、自分が好きな「おかず」をメインに据えた「ハンバーグ弁当」にしてもらいたいのです!
こちらは「幕の内弁当」の例です。
青空も入れたい、背景の山頂部分も入れたい、岩も入れたい……
どんどん盛り込んで「幕の内弁当」になっています。一枚の写真としては印象が弱いですね。
「ハンバーグ弁当」にするために、メインのおかずを主役に据えます。
撮影データ:EOS 6D・EF24-105mm F4L IS USM(焦点距離47mm)・絞り優先 AE(F16・1/60秒)・-1/3補正・
ISO400・WB太陽光・ピクチャースタイル忠実設定
撮影地:長野県乗鞍岳
鮮やかに紅葉したナナカマドを大きく配置しました。主役のナナカマドが「ハンバーグ」です。
背景の山並みは脇役の「ごはん」として、遠近感を活かしながら配置しました。
よく「写真の構図は『引き算』で考えよう」といわれていますが、
必要なものを画面から省いていくルールのことなのです。
撮影データ:EOS 6D・EF24-105mm F4L IS USM(焦点距離93mm)絞り優先 AE(F11・1/100秒)・-1補正・ISO800・WBくもり
撮影地:京都府南丹市美山町 北村集落
この日は曇天。真白にしか写らない空はぎりぎりまでカットしました。
メインの紅葉の配分を茅葺き屋根よりも大きくしなければ、
紅葉よりも茅葺きの印象が強い構図になってしまいます。
手軽な紅葉撮影地として寺社仏閣に出かける方も多いでしょう。木々の手入れが行き届き、日本らしさを感じさせてくれる場所です。それこそ「幕の内弁当」になってしまいますので、ポイントを絞るとよいですよ。
建物を入れる場合は、白い壁や茶・黒の建物との色のバランスを見ます。紅葉の赤や黄色と合わせやすい色を見つけてコーディネートする感覚で、紅葉を引き立てましょう。
撮影データ:EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USM(焦点距離102mm)・
絞り優先 AE(F16・1/10秒)・-1 補正・WBくもり・ISO400
撮影地:和歌山県高野山
山門が紅葉を囲むように配置する「トンネル構図」にして、紅葉の色鮮やかさを強調しました。濃い色のものばかりですので、露出はマイナス補正しています。
撮影データ:EOS 6D・EF70-200mm F4L IS USM(焦点距離160mm)・
絞り優先 AE(F11・1/40秒)・-1補正・ISO800・WBくもり ピクチャースタイル忠実設定
撮影地:京都市左京区 南禅寺
望遠ズームレンズをセット。縦位置構図にして2段の屋根瓦を強調した。
大きな本殿と背の高い紅葉をバランスよく配置するために、
望遠側(焦点距離160mm)で思うままに切り取りました。
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