「星空写真」の撮り方入門

「星空写真」の撮り方入門

  • 講師:中西昭雄(写真家)
  • 第1回〈月1回・全3回更新〉
写真家・中西昭雄先生

中西 昭雄

1964年、東京都生まれ。小学生時代から星に興味を持つ。大学時代にコマーシャルフォトグラファーのアシスタントを勤め、10年間の一般企業勤務を経て天体写真家として独立。天文写真家のみならず微弱光撮影装置のエンジニアとしても活躍中。キヤノンのホームページのコンテンツ「中西昭雄の星空撮影講座」のほか、「デジタルカメラ星景写真撮影術」(アストロアーツ)、「夏の星空案内(よむプラネタリウム)」(共著、アリス館)など著書多数。

撮影テクニック講座 その2(実践)

実践1月の撮影は「タイミング」が最重要!

月の撮影は、基本的には月が空高く昇ったときがベストです。月が低いときは地上の「大気のゆらぎ」の影響を受けて、クリアに見えないからです。
しかし、三日月などは夕方すぐに沈んでしまいますし、夜明けに昇ってきたらすぐに空が明るくなってしまい撮影できない月もあります。このような場合には、高度が高いか空が明るいかのせめぎ合いとなりますので、何カットも撮影し、後からどのタイミングのカットが良かったかを、じっくり探すことになります。
また、気象条件によっては、ゆらぎの少ない日や多い日があります。ゆらぎの多い日は、どんなに頑張ってもいい写真が撮れないこともあるのです。

「大気のゆらぎ」の影響を受けた月

「大気のゆらぎ」の影響で、月がはっきり見えません

クリアに写った月

「大気のゆらぎ」の影響がなく、クリアに写っています

PowerShotで撮影した月

撮影データ:PowerShot SX60HS(プログレッシブファインズーム130倍・フルサイズ換算の焦点距離2730mm相当)・1/20・F6.5・ISO100

PowerShotで撮ったと言ったら驚くでしょうか? 大気の状態が良好なときに
高倍率「光学65倍」ズームを備えたPowerShot SX60HSで撮影しました。
さらに「プログレッシブファインズーム130倍」により、
フルサイズ換算で2730mm相当での撮影です。手軽なのに、とてもよく写ります。

日出や日没の太陽がドラマチックな光景を演出するように、月出や月没時の光景も見逃せません。日没後、空がまだ真っ暗ではない時間帯に見られる月※が撮影のチャンスです。地上の景色をどう画面に取り込むか、腕の見せどころとなります。

※目安として夕方西空・月齢2〜3の月 /夕方東空・月齢13〜15の月 明け方西空・月齢15〜17の月 /明け方東空・月齢27〜28の月

赤岳の山頂の満月

撮影データ:EOS-1D Mark III・EF70-200mm F4L IS USM・1/60・F6.7・ISO100

撮影地:長野県諏訪郡

八ヶ岳の最高峰、赤岳の山頂に満月が昇ってきたところです。こういった写真に限らず、
月や星の写真の撮影は事前に月齢や見られる時間、方角などを調べておくことが重要になります。
満月は太陽と反対方向に見えます。日没と同時に昇ってきますし、日出と共に沈んでいきます。
そのようなタイミングは、空も地上も明るく、地上景色と満月を写す絶好のチャンスです。

実践2スーパームーンや月食など特別な月をねらう

月を撮るとき、事前に撮影日の月齢や、月出・月没の時間を調べておきましょう。こういったデータは、天文シミュレーションソフトウエアを購入して調べるのが楽ですが、天文情報のウェブサイトや、お天気サイトなどでも調べることができます。必要な情報が載っているサイトを探してみてください。

《 小さいときの月 》

通常の大きさの月

《 14%大きいスーパームーン 》

スーパームーン

スーパームーンは、通常よりも月が大きく見える現象です。月は地球の周りを公転するとき微妙に楕円軌道を描いています。そのため、月が地球に最接近したときと、遠ざかったときとでは月が見える大きさが変わるのです。その差はおよそ14%。大した違いではないように思いますが、同じレンズで撮り較べると、意外にもはっきりとした違いで写るものです。
ちなみに次のスーパームーンは2016年11月14日に見られます。ぜひこのタイミングでの撮影にチャレンジしてください。

《 月の公転軌道 》

月が地球に接近するタイミングが「スーパームーン」です。

スーパームーン

日本で見られる「皆既月食」はいつ?

皆既月食

月が起こす天文現象のひとつに、地球の影の中に月が入り込む「月食」があります。月食のなかでも、月が完全に地球の影に入る「皆既月食」のときには、その独特の赤みを帯びた月が夜空にぽっかりと浮かぶ不思議な光景となります。もし夜空の暗い場所ならば、満天の星空をバックに赤い月が浮かんだ幻想的な姿を目撃することになるでしょう。
次に日本で皆既月食が見られるのは、2018年の1月30日です。まだ少々先ですが、今からとてもワクワクしてきますね。

実践3月と風景を組み合わせて「月景色」に!

月をアップで写すよりも、月を取り入れた風景写真「月景色」に惹かれる方もいることでしょう。私の作品から、さまざまな月景色をご覧いただきましょう。

月を取り入れた風景写真

撮影データ:EOS-1D X・EF70-300mm F4-5.6L IS USM・1/25・F8・ISO400

撮影地:長野県諏訪郡

まだ空に明るさが残っている時間に、山の端から昇ってきた満月などはとても美しいものです。そのような時間帯なら、露出はオートでもある程度まで合ってくれます。ただし眼で見た印象より明るく写ってしまうことも多いため、マイナス補正したうえで、AEBを利用して段階露光しておきます。好みの露出にならなければ、さらに露出補正を加えて撮影してみてください。
この時、空や地上は徐々に暗くなり、逆に満月は昇ってくるため明るくなります。空、地上、月がシンクロする時間帯はそう長くないため、どうかシャッターチャンスを逃さないように!

夜明けの月

撮影データ:EOS 5D Mark II・EF16-35mm F2.8L II USM・3秒・F4・ISO100

撮影地:長野県諏訪郡

こちらは夜明けの月で、月齢は27です。このような細い月は、
光っていない部分もうっすらと明るく見えます。これはいったん地球に当たった太陽の光が反射して、
月の影の部分を照らしているのです。写真ではかなり明るくなってから撮影しているように見えますが、
露光は3秒もかかっており、実際にはもう少し薄暗い感じです。
写真をよく見ると、星もいくつか写っています。

月と冬の星座

撮影データ:EOS 6D・EF24mm F1.4L II USM・10秒・F2.8・ISO2000

撮影地:山梨県北杜市

上弦より少し前の「月齢6」とそれほど明るくない月でも、星と比較すると非常に明るいものです。
この写真は暗くなりきった夜空に、月と冬の星座が輝いていた様子を撮影したものですが、星が写るような
露出を与えると、月は完全に露出オーバーとなり、その形はまったくわからなくなってしまいます。
もし露出を月に合わせると、星も夜空のシルエットも月に照らされた雪面も写らず、
つまらない写真になってしまうため、月が露出オーバーとなるのはやむを得ないことと割り切りましょう。

都市夜景に浮かんだ月

撮影データ:EOS 6D・EF16-35mm F2.8L II USM・1/15秒・F6.3・ISO6400

撮影地:東京都豊島区

月や星は自然風景と共に写すのが魅力ですが、都会で都市夜景に浮かんだ月をねらってみるのもいいでしょう。
その場合、地上からビル群を見上げるように撮ると、ビル群の夜景の力強さに月が負けてしまいがちです。
 望遠レンズでビル群から離れて撮影するか、高層ビルの展望室からの撮影がおすすめです。

2017年最大の天体ショー「皆既日食」を見よう!

皆既日食

月が起こす天文現象として、「皆既日食」は最高の天文ショーです。皆既日食は1~2年に1度は、地球上のどこかで見ることができます。ただ、アクセスのいい場所で見られることは稀です。
来年2017年8月21日には、広大な北米大陸を横断するエリアで皆既日食が観測できます。アメリカで見られるので日本からも数万人が訪れるだろうといわれ、皆既日食ツアーも数多く企画されているのですよ。
ところで、皆既日食の時には普段は絶対に見ることのできない「新月」を見るチャンスです。この写真でも、太陽を覆い隠した月に、うっすらと模様が浮かび上がっているのが分かるでしょうか。いったん地球に当たった太陽の光が反射して、月の影を照らしているのです。

写真家 中西昭雄先生

ここがポイント!

  1. 1. 月を画面いっぱいに撮る目安は焦点距離2000mm
  2. 2. 三脚、リモートスイッチなど必需品をそろえよう
  3. 3. 風景と月を組み合わせて「月景色」を撮ろう
  4. 4. 皆既月食・日食、スーパームーンに注目しよう

『月や星の写真は、きれいに晴れた夜を逃さず撮影すべし』

「星空写真の撮り方入門」の第1回「月から始める星空写真」はいかがでしたか? 最初は「星空写真なのに月なの?」と思ったかもしれません。でも月は私たちにとってもっとも身近な星です。いろいろなシーンで月を撮影すれば、きっと星に親しみを感じることができ、星空撮影のための基礎的なテクニックの下準備ができていることでしょう。
第2回目からは、いよいよ星空写真の撮影にチャレンジしていただきます。どうぞお楽しみに!

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ありがとうございました。

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