1964年、東京都生まれ。小学生時代から星に興味を持つ。大学時代にコマーシャルフォトグラファーのアシスタントを勤め、10年間の一般企業勤務を経て天体写真家として独立。天文写真家のみならず微弱光撮影装置のエンジニアとしても活躍中。キヤノンのホームページのコンテンツ「中西昭雄の星空撮影講座」のほか、「デジタルカメラ星景写真撮影術」(アストロアーツ)、「夏の星空案内(よむプラネタリウム)」(共著、アリス館)など著書多数。
撮影テクニック講座 その1(手順)
月の撮影は、それほど特別な機材がなくても楽しめます。普段使っているカメラと望遠レンズ、そして三脚とリモートスイッチがあれば、すぐにでも始められます。
月になんとなくカメラを向けると、「思ったより小さくしか撮れないな」と気づくと思います。もし月を画面いっぱいに写すなら、フルサイズ換算で2000mmもの焦点距離が必要です。でも、そんな超望遠レンズがなくても大丈夫。ちょっとした機材の使い方で、「超望遠」を手に入れることができます。
撮影データ:EOS 80D・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM・EXTENDER EF2×III・1/45・F5.6・ISO400
仮に400mmの望遠レンズと2倍のエクステンダー「EXTENDER EF2×III」があれば、
それで焦点距離は400×2=800mmになります。組み合わせるカメラがAPS-Cサイズのカメラなら、
焦点距離は1.6倍になるので、800×1.6=1280mm(フルサイズ換算)となります。
この写真のように画面中央に大きく月が撮れます。
さらに2倍にトリミング(月の部分を拡大)すれば、ご覧のとおり。
ほぼ2500mmの超望遠レンズで撮ったのと同等に、画面いっぱいの月の写真になります。
皆さんがお持ちの機材を少しだけグレードアップすれば、画面いっぱいに月の写真を撮ることができます。
次に、月を撮影するときにぜひそろえたい、レンズ以外の撮影機材や、三脚などについてお話ししましょう。
月の撮影だけではなく、次回以降でご紹介する星空の撮影にも使えます。それほど特別なものはありません。皆さんすでにお持ちの機材も多いのではないでしょうか。
月を撮るためのカメラは、とくに性能にこだわらなくても大丈夫です。
上空の月や星空にレンズを向けているとき、ファインダーをのぞくには、しゃがみ込まなくてはなりません。
液晶モニターがバリアングル式になっているカメラは、画面を確認するとき重宝します。
月の撮影は「手持ち」でも可能ですが、ぜひそろえたいのが三脚です。
カメラに触れただけでブルブルと震えるような軽くて弱い三脚では「構図決め」も
ままなりませんので、できるだけ丈夫な三脚を使いましょう。
三脚を使って撮影する場合、手ブレ補正機構(IS)付きレンズなら、ISはOFFにします。
三脚本体よりも重要なのが「雲台」です。雲台をロックして手を離した際に、
構図がずれてしまうような雲台は役に立ちません。ビデオ用の油圧式の雲台ならスムーズに動き、
ロックしなくてもピタッと止まってくれるので使いやすいですし、
微妙な調整をしたいときに便利な微動装置付きの雲台(写真)もおすすめです。
※通常は微動のノブをカメラ側にしてカメラなりレンズを載せますが、写真(上)では逆になっています。こうすることで、カメラを上空に向けることができます。
月や星空の撮影に、カメラのブレは大敵。とくに超望遠での撮影では、
カメラのシャッターボタンを指で押すと、カメラがブレてしまいます。
そこで必需品となるカメラアクセサリーが「リモートスイッチ」です。
風景写真を撮る方なら、きっと愛用されていますね。
月を撮るとき、事前に撮影日の月齢や、月出・月没の時間を調べておきましょう。こういったデータは、天文シミュレーションソフトウエアを購入して調べるのが楽ですが、天文情報のウェブサイトや、お天気サイトなどでも調べることができます。必要な情報が載っているサイトを探してみてください。
撮影データ:EOS 6D・EF70-300mm F4-5.6L IS USM・1/160・F5.6・ISO400 撮影地:東京都墨田区
この作品は、日が落ちるころのまだ空に明るさが残っている時間に、
スカイツリーの上部と上弦の月が重なるようなポイントを事前に調べておき、
現場で最終的な構図の調整を行いました。
露出設定は月を撮るうえで重要なポイントです。月が満月のように大きければ、スポット測光により自動露出が効くこともあります。しかし三日月のような場合はかなりマイナス補正を加える必要があります。
「こんな月ならこの露出」という目安となる「露出表」を掲載します。とくに露出を「マニュアル」で設定するときには役立つでしょう。
月にピントを合わせるとき、オートフォーカス(AF)でピント合わせをしたらそのまま撮影してもかまいません。ライブビュー機能を用い、AFが合わせやすい明暗差がある場所か、「月の縁」でピント合わせを行います。
オートフォーカスによるピントは、明暗差のある場所で合わせるようにします。
※グリーンの枠はAFフレームのイメージです。実際の表示とは異なります。
ピントが合ったら、あとはシャッターを押すだけ。せっかく合わせたピントが動いてしまわないよう、レンズのフォーカスモードスイッチはマニュアル〈MF〉に切り替えたほうが無難です。
ライブビューで月を画面中央に入れ(日の丸構図ですね)、リモートスイッチでシャッターを切ります。オートブラケット(AEB)の機能を使い、適正と思われる露出の前後の露出でも撮っておきましょう。
画像は拡大表示して、ピントやブレの様子をかならず確認しましょう。どうですか? ばっちり撮れたでしょうか。
月の撮影上達のために、目標としてほしいのは「月齢をひとまわり、すべて撮影すること」です。月は平均的に29.5日で月齢が一巡します。新月や月齢1、月齢29などの極めて細い月を除く、月齢2から28までの27種類が撮影できればよいでしょう。
毎日晴れてくれれば1カ月で撮影完了ですが、雲が出ていて撮れない日もあります。制覇するには早くても数カ月から半年ぐらいはかかることでしょう。半年間、晴れた晩に欠かさず月を撮っていれば、きっと月の撮影のベテランになっています。ぜひチャレンジしてください。
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