質問して上達!RAW現像入門 vol.01 ~思いどおりに作品を仕上げよう~

講師紹介

「作品をイメージどおりに仕上げるには、どうすればいいの?」RAWデータの現像と画像調整についての質問・疑問・お悩みを実例で解決! キヤノンのRAW現像ソフト「Digital Photo Professional(DPP)を使い、実際に作品を仕上げるプロセスを公開しながらお答えしていきます。

上達へのギモン 紅葉の赤をもっと色鮮やかに仕上げるには?

撮影の基本 紅葉の赤を引き出すには“透過光”で撮ろう。

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紅葉に感動して撮影しても、真っ赤に燃えるような赤色がうまく再現できない……。それは太陽を背にして「順光」で撮っているからかもしれません。順光では葉っぱに光が反射して色がくすみ、メリハリのある写真にならないのです。紅葉を撮るコツは、葉っぱの向こうに太陽がある逆光気味に“透過光”で撮ることです。こうすると色鮮やかな赤色の写真を撮ることができます。

単一色が画面の多くを占める場合、べったりと平面的な仕上がりになりがちなので、色の再現には気を使います。この赤色の再現が、画像調整の重要ポイントです。

画像調整をする前に、まずは画像を何も調整しないままプリントをします。これを「ストレートプリント」と言います。このストレートプリントを基準に、写真の各部をどのように仕上げていきたいのか、「調整プラン」を練ります。これが画像調整の方向を示す“設計図”になります。

設計図のない画像調整は、地図のないドライブと同じです。なかなかゴールに行き着けません。撮ったときのイメージを大切にしながらプランを練り、仕上げていきましょう。

data

EOS 70D・EF70-200 F4L IS USM・1/200・F5.6・-2/3補正
・ISO200・ホワイトバランス「オート」・ピクチャースタイル「忠実設定」

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plan この作品の主役は、画面の多くを占める紅葉の赤色です。赤色の鮮やかさを引き出し、印象的な作品にしたいです。
plan 影になっている枝や背景の黒い部分がややくすんでいます。ここをグッと引き締め、紅葉を引き立てたいです。
plan 背景に水面のきらめきを入れてみたかった作品。この光線のきらめきをもっとシャープに表現したいです。

画像調整 3つのステップで“理想の作品”に仕上げていこう。

step01 画面の多くを占める紅葉の赤色のトーンを引き出したい
〈ホワイトバランス〉を切り替え全体の色調を合わせる。

紅葉の撮影で気をつけたいのが“露出”です。露出オーバーにしすぎると紅葉の赤が浅いオレンジ色に、逆にアンダーだと色ににごりが生じます。RAWモードでも段階露光をおすすめします。撮影時に適正な露出で撮れているなら、全体の色調のイメージをつかむために「ホワイトバランス」を切り替えてみます(画像・右)。撮影時のホワイトバランスは「オート」でしたが、「くもり」にすると実際の色調に近づきました(画像・左)。

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step02 影になった枝や背景の黒い部分をもっとくっきりさせたい
〈コントラスト〉の調整で黒い部分を引き締める。

撮影時のピクチャースタイル「忠実設定」ではクセのない素直な画像が得られますが、全体に平板で“ぬるい”印象です。そこで背景の黒を引き締めて紅葉を鮮やかに浮き上がらせるために、「コントラスト」を強めます。黒を黒らしくクッキリと見せることで、葉を赤く染める透過光がきれいに見えてきます(画像・右)。コントラストをつけすぎると(画像・左)黒の部分が紅葉のエッジまで浸食してしまうのでご注意ください。

<コントラスト> 強すぎ <コントラスト> 適量
step03 水面のキラキラ感をもっとシャープに表現したい
〈シャープネス〉調整は、画像調整の最終仕上げ。

最後に、「シャープネス」を調整して作品を仕上げます。「シャープネス」を上げると画像全体がクッキリと強調されます。背景に写り込んだ水面のキラキラ感や、葉の輪郭を際立たせるために、シャープネスを上げることにしました。この場合、step02で「コントラスト」を上げすぎていると、シャープネスの強調によって画像が美しくなくなる場合があります。画面全体の変化を確認しながら、少しずつ調整して仕上げます。

<シャープネス> 強すぎ <シャープネス> 適量

完成

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画像調整によって透過光に浮かび上がる紅葉の鮮やかな赤色が再現できました。最初の画像と比較すると、違いは一目瞭然。赤色をより赤く調整するよりも、背後の黒色を引き締めることで赤色がクッキリしてくることがお分かりいただけたでしょうか。RAWモードで撮っていたからこそ、このように微妙な画像調整が可能になるのです。

Q RAW現像質問箱

RAW現像に関する疑問・質問・お悩みに、写真家・出水惠利子先生がお答えするコーナーです。

RAW現像のためのソフトウェアは、どのように選べばいいですか?

RAWデータは“生”のままのデータなので、RAWのままではパソコンなどで表示させることはできません。パソコン上で扱えるように画像を調整することを銀塩フィルムの「現像」になぞらえて「RAW現像」と呼んでいます。RAW現像用のソフトウェアとして販売されているものもありますが、キヤノンのデジタルカメラをお使いの皆さんであれば、カメラ同梱のCDに収められている「Digital Photo Professional(DPP)」がお薦めです。キヤノンのカメラやレンズのことをいちばんよく知っているキヤノンがつくったRAW現像ソフトですから、入門には最適です。もちろん私たちプロの写真家も使っているソフトです。

デジタルカメラの画質モードを「RAW」にして撮るメリットは?

作品づくりをするうえで、RAWモードでの撮影には多くのメリットがあります。RAWモードで撮影した画像=RAW画像は、カメラの撮像素子が記録したデータを“生(RAW)”のまま保存しています。画像を圧縮して保存するJPEGに比べて高画質であると言えます。JPEGではつぶれやすい、写真のハイライト部とシャドー部の再現性にも優れています。また、RAWモードで撮影すれば、あとで「ピクチャースタイル」や「ホワイトバランス」の無劣化での変更が可能です。撮影者が表現したいイメージどおりに作品を仕上げるための素材として、RAWモードでの撮影をお薦めします。

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RAWデータのままプリンターで出力することはできますか?

一般的にRAWデータでは、お店プリントやダイレクトプリント(カメラとプリンターを直接つないでのプリント)はできません。RAWデータは、現像ソフトで「現像」してからプリントをします。最近は「カメラ内RAW現像」というカメラ本体でRAWをJPEGに現像する機能を搭載している機種もありますが、プリンターで出力するなら、キヤノンのRAW現像ソフト「Digital Photo Professional(DPP)」などで現像してからプリントをしましょう。また、データを持ち込んでお店でプリントするときは、TIFFやJPEGなどに変換してから持っていきましょう。

プロの写真家は、いつでもRAWモードで撮っているのですか?

何を撮るときもつねにRAWで撮っているわけではありませんが、仕事の内容やクライアント、デザイナーの要望によっては、仕上げる画像サイズや色の調子をあらかじめ決めておくのが難しい場合があります。JPEGでは撮影後にデータを調整できる幅が狭い(画像調整によって画質が劣化してしまう)のですが、RAWモードで撮っておけば、画像処理による劣化はほとんど起きません。画像を劣化させずに写真のクオリティを高めていく画像調整の作業ができるので、プロはRAWモードで撮ることが多いのです。

高ISO感度で撮ったら現れた「ノイズ」は、どうすれば消せますか?

ノイズの見極めの基本は「100%表示」で画像を見たときの状態で判断することです。「Digital Photo Professional(DPP)」には、「NR(ノイズリダクション)」のタブがあります。このタブの中に、RAW用の「輝度ノイズ緩和レベル」と「色ノイズ緩和レベル」を調整するバーがあります。画面上のざらざら感が気になる場合は、「輝度ノイズ緩和レベル」のバーを右にスライドさせて、「NRレビュー」で画質をチェックしながら決定しましょう。「緩和レベル」を10以上にしすぎてしまうと、画像が滑らかになりすぎて、ピントが合っていないような画面になってしまいますから、調整は慎重に行ってください。

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講師 出水 恵理子 先生

1971年、東京都生まれ。東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。
広告を中心にフリーランスで活動中。海やテトラポッドの作品をライフワークとしている。EOS学園講師としても活躍中。