冬の「ドラマ」を撮ろう

冬の「ドラマ」を撮ろう

  • 講師:田中達也(写真家)
  • 第3回〈月1回・全3回更新〉
写真家・田中達也先生

田中達也

愛知県生まれ。医療ソーシャルワーカーとして精神障害者のケースワークに従事。その後、自然写真家として独立。身近な自然から風景・オーロラと幅広いジャンルを手がけ、繊細で力強い独創的な作風を特徴とする。オーロラと風景を組み合わせた一連の作品は海外からも高く評価され、カメラ誌・アウトドア誌・カレンダーなど多くの媒体に作品を発表している。
日本写真家協会・日本自然科学写真協会 各会員

感動シーン撮影のポイント(その2)

第1回、第2回でも、冬の定番として霜・氷といった被写体を紹介してきました。
氷点下の気温が続くと、普段なかなか見ることのできない氷の世界が現れます。
窓ガラスに発生する霜や渓流沿いにぶら下がる風鈴のような氷柱、凍った水面に現れる氷紋などです。
それらは気温が低いほど姿形が美しく魅力的な被写体として存在感も増していきます。
そんなモチーフの探し方、撮り方のポイントを紹介します。

ポイント3感動シーンは新鮮な「被写体探し」から!

【 窓 霜 】

「窓霜」と名づけたこの被写体。窓の霜をクローズアップで写したモノ。霜はわずかな温度差や湿度の違いで、さまざまなパターンを描きます。家の窓以外にも霜は高い高度を飛ぶ飛行機の窓や冷え込んだ朝の車の窓にも発生します。範囲は狭いので形や模様で好みの部分をクローズアップでねらってみましょう。

新鮮な「被写体探し」:作例「窓霜」

撮影データ:EOS M・EF-M18-55mm F3.5-5.6 IS STM(焦点距離88mm ※フルサイズ換算)・F5.6・1/60秒・-0.7補正・ISO800・WBオート

撮影地:スウェーデン

窓にできた羽毛のような霜が夕日に照らされて輝いていました。
室内から撮影したものですが窓の外はマイナス30度。
極寒の地に行くときは、ぜひ探してみてください。

新鮮な「被写体探し」:作例「羽毛のような窓霜」

撮影データ::EOS M・EF-M18-55mm F3.5-5.6 IS STM(焦点距離50mm ※フルサイズ換算)・F5.6・1/500秒・-1.3補正・ISO800・WBオート

撮影地:スウェーデン

ひとつひとつの形を見比べても同じものはふたつとありません。
窓霜は自然が作り上げた、まさにアートです。

【 風 鈴 氷 】

渓流の岸の草や岩陰などにぶらさがる小さな氷柱。ぶらぶらと揺れる様子から「風鈴氷」と名付けました。寒冷地の渓流を探すと見つけることができます。さまざまな形を見せる風鈴氷との出会いはまさに偶然です。

新鮮な「被写体探し」:作例「風鈴氷」

撮影データ:EOS-1Ds Mark II・EF70-200mm F2.8L IS USM・EXTENDER EF1.4×III・F16・1/10秒・-0.3補正・ISO125・WB5500K

撮影地:福島県猪苗代町

静止している風鈴氷を主役に、脇役には動感のある川の水流を組み合わせて演出しました。

新鮮な「被写体探し」:作例「風鈴氷と川の水流」

撮影データ:EOS 5D Mark II・EF100mm f/2.8L Macro IS USM・絞り優先AE(F11・1/6)+0.3補正・ISO100・WB オート

撮影地:長野県茅野市

乳白色の風鈴の先に出来たシャンデリアのようなクリスタルが美しい氷柱です。
ある程度勢いのある流れから飛ぶ飛沫によって形成されます。流れの動感表現はスローシャッターで。
風鈴氷をシャープに捉えるためには、揺れていないタイミングをねらいます。

【 氷 紋 】

凍った水面に花柄のような模様や放射状の模様が現れる現象が「氷紋」です。池などに張った氷の厚さなど関係でサイズはさまざま。大きなものでは直径が10メートルを越えるものもあります。1メートル以下の小さな氷紋は群れて複数現れることもあります。

新鮮な「被写体探し」:作例「氷紋」

撮影データ:EOS 5D Mark II・EF70-200mm F2.8L IS USM・F11・1/100秒・+0.7補正・ISO200・WB オート

撮影地:岐阜県高山市

1点から葉脈のように放射状に広がる黒い影。まわりは丸く雪が溶けて模様を形作っています。
氷紋だけを撮影するとただの記録になってしまうので、絵になる画面構成を模索しましょう。

新鮮な「被写体探し」:作例「湖畔の氷紋」

撮影データ:OS-1Ds Mark III・EF24-70mm F2.8L USM・F8・1/2秒・+0.3補正・ISO100・WB オート

撮影地:福島県裏磐梯高原

大きく広がる氷紋を風景的に構図しました。岸辺の木々や湖面の変化など氷紋だけにとらわれず、
さまざまな要素を盛り込んでいます。厳しい湖畔の風物詩としての風景となりました。

ポイント4自然界が作り出す氷の「舞台美術」に着目!

寒さがとくに厳しくなる2月ごろは、寒波の到来で一夜にして滝が凍りついたり、氷柱が成長のピークを迎えたりして絶景に出会うことがあります。雪と氷が一体となり見事な造形美を披露するのもこの時期。厳しい寒さだからこそ撮影できる被写体を探しに出かけようではありませんか。

自然界が作り出す氷の「舞台美術」:作例「氷柱群」

撮影データ:EOS-1D Mark II・EF24-70mm F2.8L USM・F16・1/4秒・+0.3補正・ISO125・WBオート

撮影地:長野県三岳村

氷柱は岩肌から染み出る水が凍結し、それが下方へと成長します。
広範囲に群れて発生した氷柱を「氷柱群」と呼び数百メートルも続く場所もあります。
全容を構図に入れるのはありきたりです。ここでは槍のような鋭さが印象的な部分を切りとりました。

自然界が作り出す氷の「舞台美術」:作例「氷魂」

撮影データ:EOS-1D Mark II・EF70-200mm F2.8L IS USM・F8・1/80秒・ISO200・WBオート

撮影地:長野県王滝村

滝壺のまわりにできた氷魂と氷柱の組み合わせ。上から落ちてきた
雪の固まりが滝壺の水を吸って「氷魂」になっています。
撮影時は大粒の牡丹雪が振りしきる悪条件まで写し込みました。
背後に複数の氷柱を従えた、この滝壺の厳しい様子を表現しました。

自然界が作り出す氷の「舞台美術」:作例「氷瀑」

撮影データ:EOS 5D Mark II・EF16-35mm f/2.8L USM・絞り優先AE(F11・0.5)+0.3補正・ISO100・WB オート

撮影地:長野県王滝村

全面結氷した見事な氷瀑です。あまりに広範囲で、タテヨコの構図選びにも迷うほどです。
そこで広角ズームレンズを選択。青色の氷塊をメインに迫力が増すよう至近距離から撮影。
デフォルメされた表現になりました。

ポイント5ドラマチックな舞台照明=太陽光の演出

朝日や夕日の時間帯は誰もがドラマを期待する撮影シーンです。とくに冬空は晴れたり雲が飛来したりと変化も大きく、雲間からの光が見事に空を染め上げることも。こうした空のドラマは予測しにくいものですが、出会うことができれば期待以上の感動があります。

太陽光の演出:作例「雲間の太陽」

撮影データ:EOS 5D Mark II・EF16-35mm F2.8L II USM・F9・1/160秒・ISO200・WB 太陽光

撮影地:アイスランド

雲間から現れた低い太陽が空一面に広がる雲に反射して、あたりを朱色に染めました。
空気がよく澄んでいたので反射した光もクリアーに四方へと拡散し、美しい光景を演出してくれました。

太陽光の演出:作例「夜明けの光」

撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF16-35mm F2.8L USM・F11・0.5秒・-1補正・ISO100・WB太陽光

撮影地:長野県御岳山

夜明けの光がグラデーションとなって、東の空に広がりました。
この美しい空模様は快晴で星が見えなくなるタイミングの空で見ることができます。
見た目どおり美しいグラデーションを撮影するには、露出を自動的に変えて撮る「AEB撮影」をチョイス。
1/2ステップの「段階露出」がポイントです。

太陽光の演出:作例「木々に重なる太陽」

撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF500mm F4L IS USM・EXTENDER EF1.4×III・F11・1/800秒・ISO100・WB5400K

撮影地: 愛知県豊田市

冬の太陽は、夏に比べて地球からの距離が離れているため、
日の出日の入りは丸い形が肉眼で見えるほどあまりまぶしくありません。
そんな日は望遠撮影のチャンスです。丸く浮かんだ太陽よりも、
手前の木々に重ることで太陽の存在感を演出できます。

※太陽を肉眼やファインダー越しに見つめすぎると目を傷めます。ご注意ください。

太陽光の演出:作例「夜明け前の星空」

撮影データ:EOS 5D Mark II・EF16-35mm f/2.8L USM・絞り優先AE(F2.8・20秒)・ISO1600・WB 3400K・MC PROソフトン(A)使用

撮影地: 長野県霧ケ峰高原

八ヶ岳を見渡す雪の丘にたたずむ白樺の木。
夜も更けたころ東の空には、すでに春の星座が昇り始めていました。
明るい乙女座のスピカの右横には台形を形作るからす座が見えています。
冬の夜空はすでに春です。夜明け前には夏の天の川も稜線に横たわります。
雪景色の中で撮影する星空は、冬のエンディングにふさわしい感動風景です。

写真家 田中達也先生

ここがポイント!

  1. 1. オーロラを「脇役」にまわして風景を演出する
  2. 2. ドラマチックな「光」の演出に注目!
  3. 3. 自分だけの被写体を見つけて表現しよう
  4. 4. 自然界の造形美こそ最高のアート!

『自然の造形美を余さず「舞台」に生かすべし!』

「奇跡の感動シーン」は、いかがだったでしょうか。どんな被写体にも感動できるのは大切な感覚です。撮影者に求められるのは、シャッターチャンスを逃さない冷静な判断力と、感動を余すことなく表現しきる演出力です。それがなければ、人の心に届く作品に到達できません。写真は奥が深いですね。
風景写真講座「冬の『ドラマ』を撮ろう」は、最終回となりました。これまでお読みいただき、ありがとうございました。

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