冬の「ドラマ」を撮ろう

冬の「ドラマ」を撮ろう

  • 講師:田中達也(写真家)
  • 第3回〈月1回・全3回更新〉
田中達也(写真家)

田中達也

愛知県生まれ。医療ソーシャルワーカーとして精神障害者のケースワークに従事。その後、自然写真家として独立。身近な自然から風景・オーロラと幅広いジャンルを手がけ、繊細で力強い独創的な作風を特徴とする。オーロラと風景を組み合わせた一連の作品は海外からも高く評価され、カメラ誌・アウトドア誌・カレンダーなど多くの媒体に作品を発表している。
日本写真家協会・日本自然科学写真協会 各会員

感動シーン撮影のポイント(その1)

オーロラは高緯度の地域、つまり北米や北欧の国々で見られる大気の発光現象。
カナダのイエローナイフなどが有名な観測地です。
オーロラには同じようなパターンがあるものの同じ画柄はありません。
いまでは発生状況や規模の予測ができますが、天空のどこでどのようなオーロラと巡り会えるか、
その場にいないとわかりません。そのわくわくドキドキする出会いが楽しみなのです。

ポイント1オーロラを「脇役」にして風景を演出しよう

オーロラといえば天空を暴れまわる光のショーのように思われるかもしれませんが、ぼんやりしていてあまり動かないオーロラから激しく動くオーロラまで種類があります。
オーロラの光を写すだけなら比較的簡単です。しかし、風景写真的な演出を考え感動を伝える撮影となると、一筋縄ではいかない面もあります。まずは、オーロラの迫力に惑わされずに冷静さを保つこと。そして、普段景色を撮影する要領でしっかりと構図を決めることがポイントです。

オーロラを「脇役」にして風景を演出:作例1

撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF16-35mm F2.8L II USM・F2.8・10秒・ISO1000・WBオート

撮影地:カナダ

月夜で撮影したオーロラ風景です。月の光があれば地上風景もよく確認できて、構図は決めやすくなります。
なにより景色がシルエットにならず情景としての趣が高まります。
景色越しのオーロラは、「主役」ではなく風景への感動を高める「脇役」としての演出にひと役買っています。  

オーロラ撮影のためのカメラ設定のポイントを紹介しましょう。実際はケースバイケースですが、ヒントとして活用してください。

〈冬のオーロラ撮影設定のヒント〉

冬の風景写真にメリハリやコントラストをもたらすのが「影」。演出のポイントは「露出補正」です。

〈 露 出 〉

ISO感度は1600〜3200。絞り開放にして露光時間は15秒から30秒が基本。

〈 ピント合わせ 〉

レンズのスイッチをマニュアルフォーカス(MF)に切り替え、撮影前に明るい星や街灯りで「無限遠」に合わせる。ピントリングが動かないようにテープで固定。

〈 レンズ選択 〉

24mm(35mm換算)がベストな画角。開放F2.8からF4の広角ズームレンズが最適。

〈 撮影モード 〉

撮影は連続撮影モードでレリーズロックすれば、めまぐるしく変化するオーロラのシャッターチャンスを逃しません。
オーロラを「脇役」にして風景を演出:作例2

撮影データ:EOS-1D Mark II・EF14mm F2.8L USM・F2.8・25秒・ISO1000・WBオート

撮影地:カナダ

林の奥に現れた放射状に広がるオーロラの帯。遠景の光の帯だけでは画面構成が単調になってしまいます。
そこで鍵になるのが地上の景色=舞台です。オーロラを画面左に、右側にはカンバの木々を
脇役のイメージで前景に入れ遠近感を演出した構図にしました。

カメラ設定の次に重要なのは、オーロラ撮影の手順です。北の空よりも南の空に見えるオーロラが明るくなり始めたら、オーロラが活発になる兆しなので構図を決めてスタンバイ。このときレリーズコードは氷点下で針金のように凍るため撮影前に短めにセットしておくこと。手袋も必需品ですよ。マイナス数十度の環境では、手がカメラや三脚の脚に張りついてしまうからです。

オーロラを「脇役」にして風景を演出:作例3

撮影データ:EOS 5D Mark II・EF24mm F1.4L USM・F2.5・6秒・ISO1600・WBオート

撮影地:スウェーデン

オーロラのカーテンがドーナツ状のループを描いて、あたかも天から光が降り注いでいるようでした。
ループ状に繋がっているのはとても珍しい光景です。
タテの筋は「レイ」と呼ばれ、地球を取り巻く磁力線に沿って現れます。
景色が平坦でシンプルなためレースのカーテンを見上げるようなイメージで縦構図を選びました。

ポイント2身近な「光のマジック」を見つけて撮ろう

幻想的な光=オーロラの次は、皆さんの身近に見つけることのできる「光」に目を向けてみましょう。
冬の光は、ほかの季節に比べて弱く柔らかい特長があります。そのためコントラストが低く露出調整しやすいのがメリット。また雪や氷そして雲による光の反射や拡散が思わぬフォトジェニックな光景を生み出したり、光の現象を発生させたりします。冬ならではの「光のマジック」を見つけてみませんか。

身近な「光のマジック」:作例「プリズム現象」

撮影データ:EOS-1Ds Mark II・EF70-200mm F2.8L IS USM・EXTENDER EF1.4×III・F5・1/13秒・ISO200・WB太陽光

撮影地:福島県北塩原村

地上にオーロラのカケラが落ちていました……というのは冗談です(笑)。
でも、オーロラのように美しい彩りでしょう? この七色の光は、氷上の空気溜まりに発生した
「プリズム現象」です。PLフィルターを回転させ色濃く見えた状態を捉えています。
この撮影は、日向よりも日陰や朝夕の弱い光が条件的にも適しています。

身近な「光のマジック」:作例「砂漠のような雪原」

撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF24-70mm F2.8L USM・F11・1/1000秒・ISO100・WB 5350K

撮影地:北海道富良野市

一見、砂漠に見えませんか? じつは「雪原」の風景です。
この絶好の舞台を演出するため、露出は空に合わせます。
そのため雪原はアンダーになりグレーに発色し、影が少なくなだらかな砂漠のように表現できました。

身近な「光のマジック」:作例「コロナ」

撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF24-70mm F2.8L USM・F13・1/4000秒・ISO100・WB 5500K

撮影地:青森県八甲田山

スノーモンスターの背後に隠れた太陽のまわりに現れた虹色の「光環」。
別名コロナとも呼ばれる光の輪は、雲に反射した光のプリズム現象です。
マイナス3〜4の極端なアンダー露出で、色鮮やかさを浮かび上がらせる演出がおすすめです。

身近な「光のマジック」:作例「スポット光による演出」

撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF70-200mm F2.8L IS USM・F16・1/200秒・ISO100・WB オート

撮影地:北海道美瑛町

雪原という舞台に降り注ぐスポット光による演出です。
鉛色の空を背景に色違いの雪の丘が折り重なっていました。
丘と丘が重なり合うようなモノトーンの画面構成ですが、中ほどに白い丘の存在が目を率きます。
この部分が、雲間から差し込んだスポット光による演出なのです。

色鮮やかな冬の花・冬の実

冬は閑散として寂しい風景という印象がありますが、少し目を凝らすと冬に咲く花や赤い実を見つけることができます。とくにツバキやサザンカは冬の花。満開の条件もあれば枝先にひっそりと咲く一輪も情緒的。フィールドで見かける赤い実も雪景色の中では色鮮やかさが印象となりフォトジェニックです。

色鮮やかな冬の花・冬の実:作例1

撮影データ:EOS 5D Mark IV・EF100mm F2.8L マクロ IS USM・F2.8・1/4000秒・-2.3補正・ISO100・WB5500K
撮影地:愛知県一宮市

色鮮やかな冬の花・冬の実:作例2

撮影データ:EOS-1Ds Mark III・EF70-200mm F2.8L IS USM・F4.5・1/400秒・+1.7補正・ISO100・WBオート
撮影地:福島県北塩原村

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